「"I can't breathe."」
山神 美琴 Mikoto Yamagami
2020年、ジョージ・フロイドの死をきっかけにBLM(BLACK LIVES MATTER)が日本でもムーヴメントとして沸き起こった。真っ黒の画像をSNSに投稿する友人や知人、有名人。しかし、それは数日で終わった。「ムーヴメント」として終止符を打ったのだ。
大きすぎる暴力の記憶は、センセーショナリズムによってかき消されてしまう。誰しもが差別者/被差別者の往復をする世の中で、代償/主張、自覚/認識の感覚が失われつつある。世の中で起こっている「こと」は、突発的にではなく、すべて地続きの上で起こっている。だからこそ、私たちは常に表面化された情報を再認識する態度を問われる。
私はセクシャルマイノリティに属するが、自身がそうであると完全に認識した時、長く俯瞰していたところに、突然飛び込んだような感覚だった。それは自分自身を相対化し、過去の自分をサンプリングするような行為で、その流動性の中で圧倒的なリアリティと開放感を得た。社会の範囲と自身の属性を認識することで、それらは大きな柱となり、自己を支えるのだと知った。
これまで、自身の最も純粋な自意識や感覚よりも、社会の常識や欲が正当化される世の中で、性自認をするまで私の体は、社会や女として断絶されたように感じることが度々あった。そのような第三者からの否定と、懐疑的な肉体とのジレンマの中で、外との繋がりを求めてしまっていた。
ところが、自分がある「こと」の当事者であると自覚したとき、長く感じていた息苦しさの理由に気付いた。現代に溢れる情報量こそが、気付きにくさの原因であり、認識力を曖昧にするものなのだと。
息苦しさの中にカタルシスは生まれない。だからこそ、私たちは日々の中で、認識と再認識の思考を繰り返さなければならない。
この写真は冒頭のそれらと同時期(2020年6月頭)に撮影した。本来、現代のメディアを扱う態度へのアンチテーゼとして制作を行っており、BLMを軸にした作品ではなかったが、撮影のタイミングと、ムーヴメントを「ムーヴメント」として終わらせないために、そして息苦しさの先にあるものを信じて、タイトルに彼の言葉を借りる。
2020
594mm × 841mm
インクジェットプリント
collaborative work with Takamitsu Miyagawa